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東京高等裁判所 平成8年(行コ)19号 判決 1997年1月30日

東京都千代田区一番町二三番地二

控訴人

共立酒販株式会社

右代表者代表取締役

古市滝之助

右訴訟代理人弁護士

亀田信男

井上励

和田元久

東京都台東区東上野五丁目五番一五号

被控訴人

東京上野税務署長 友原征夫

右指定代理人

小尾仁

渡辺進

桑原秀年

髙橋博之

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し平成四年七月二日付けでした酒類販売業免許を付与しない旨の処分を取り消す。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との裁判を求め、被控訴人は、主文第一項と同旨の裁判を求めた。

第二当事者の主張

当事者の主張は、次に付加するほか、原判決中「事実」第二の一ないし四記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  酒販免許制度は、その制度が設置された昭和一三年当時と酒税の重要性、酒類の販売量、飲酒量等の事情が変化した現在においては、職業選択の自由とその制度目的を超えて不必要、不合理に侵害するものであり、憲法二二条一項に違反するに至っている。

2  酒税法一〇条一一号の規定は、酒税の保全という立法目的を超える不必要、不合理な制限であるが、酒販免許制度の合憲性を判断するに当たって、酒税のほ脱の防止、致酔性の飲料である酒類の販売秩序の維持、飲酒による事故、アルコール依存症、未成年者の飲酒等の社会問題の防止等を考慮することは、酒税法の目的からみて妥当ではない。

3  規制緩和が重要な課題になっている現在、酒類の販売業免許の廃止が審議会等において公的に審議の対象になっており、早晩、酒類の販売業免許が廃止されることになっている。

4  酒販免許制度において免許付与の基準とされる人口基準は、その基準自体不当であるが、夜間人口のみを考慮し、昼間人口、人口一人当たりの飲酒量を考慮していないことも不当であり、このような基準に基づき行われた本件処分は、違法である。

二  被控訴人の主張

1  酒販免許制度は、その目的につき法律上規定が設けられていないが、昭和一三年当時における酒販免許制度の導入の経緯、現行酒税法の諸規定によれば、酒類の販売業者の経営の安定、酒類の需給の均衡維持を通じて、酒税の保全と酒税のほ脱の防止を図ることを目的とするものである。

酒税は、税負担が最終的に消費者に転嫁されることによってその徴収が完了するものであり、納税義務者である酒類の製造者のほか、製造者と消費者の中間に位置し、製造者から消費者への税負担の転嫁を仲介する酒類の販売業者も、間接消費税である酒税の徴収確保に重要な役割を担っているものであり、酒販免許制度は、このような酒税制度を有効に機能させ、酒税収入の安定的かつ効率的な確保を図ることを主たる目的としている。

また、酒販免許制度は、免許申請者等が過去において酒税法違反の事実があったこと等遵法精神に欠けることがあったと認められる場合等には、免許を付与できないとしているものであり、酒税のほ脱に加担する危険性の高い者が酒類の販売に関与したり、そのような販売場が設置されることを防止することによって、酒類の販売体制を健全化することをも目的としている。

2  酒販免許制度のうち、酒税法一〇条一〇号の規定については、既に最高裁判所の判決によって憲法二二条一項に違反せず、合憲であることが認められているが、酒税法一〇条一一号の規定は、同条一〇号の規定が酒類の製造者において酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考えられる最も典型的な場合につき酒類の販売業免許を与えないことができる旨を規定していることとともに、酒税を保全するために、酒類の需給の均衡からみて、後発的に、酒類製造者において酒類販売代金の回収を来すおそれがある場合に免許を与えないことができる旨を規定するものであり、酒販免許制度を採用した立法目的からみて必要かつ合理的な制限を規定したものであり、同条一〇号の規定を補完して酒税の保全を図るものであって、憲法二二条一項に違反しないものである。

3  酒販免許制度と規制緩和との関係については、酒税の重要性、庫出課税制度の下における酒販免許制度の必要性等を考慮し、酒類が致酔性を有する嗜好品であるという性質上、その販売、流通につき適正な管理が必要であり、米国、カナダ等の諸国においても免許制度等の厳格な販売管理が実施されていることからみると、規制緩和の要請があるとしても、酒販免許制度の廃止、酒税法一〇条一〇号所定の要件の緩和は妥当ではない。

もっとも、規制緩和の流れを考慮して、昭和六三年一二月一日に行われた臨時行政改革推進審議会の「公的規制の緩和等に関する答申」における酒類小売販売業に関する提言及び同年一二月一三日に閣議決定された「規制緩和推進要綱」を踏まえ、その具体化措置を講ずるために、酒類販売業免許等取扱要領について、平成元年六月一〇日に改正が行われ、平成八年度から中央酒類審議会において幅広い視点から酒販免許制度につき検討が行われている。

4  右改正においては、それまでの酒類販売業免許等取扱要領(以下「旧取扱要領」という)につき、小売販売地域の見直し、人口基準の採用等を行い、酒類販売業免許の付与について、透明性及び公平性を一層確保することにしたものであり(右改正後の取扱要領を、以下「現行取扱要領」という)、控訴人が平成三年九月三日にした酒類販売業免許の申請(本件申請)は、現行取扱要領に基づき取り扱われ(現行取扱要領は、平成五年七月八日に改正され、現在に至っている)、酒税法一〇条一一号の規定に該当するという理由で付与しない旨の処分(本件処分)が行われたものであり、本件処分は、適法である。

第三証拠関係

証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がなく、棄却すべきものと判断するものであって、その理由は、次のとおり、敷衍、付加するほか、原判決中「理由」第一及び第二記載のとおりであるから、これを引用する。

一  本件規制の合憲性について

1  原判決中「理由」第一の一ないし五認定の事実、甲第九五、第九六号証、第一〇二号証及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、的確な反証はない。

(一) 角田酒販株式会社(その代表者は、本件の控訴人代表者と同一人である)は、昭和四九年七月、酒類販売業免許の申請をしたが、昭和五一年一一月、東京上野税務署長(当時の名称は、下谷税務署長であった)が酒税法一〇条一〇号の規定に該当するとして、右申請につき免許を付与しない旨の処分(以下「別件処分」という)をしたため、同条一〇号の規定が憲法二二条一項に違反する等として、別件処分の取消しを請求したところ、最高裁判所は、平成四年一二月一五日、酒税法一〇条一〇号の規定が憲法二二条一項に違反しない等として、角田酒販の上告を棄却する旨の判決(民集四六巻九号二八二九頁参照。以下「別件最高裁判決」という)を言い渡し、別件処分の取消請求が棄却された判決が確定した。別件最高裁判決は、一人の裁判官の補足意見、一人の裁判官の反対意見が付されたものであった。

(二) 別件最高裁判決は、憲法二二条一項と酒税法一〇条一〇号との関係について、概略、次のように判示している。すなわち、

(1) 憲法二二条一項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきであるが、職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請が強く、憲法の右規定も、特に公共の福祉に反しない限り、という留保を付している。しかし、職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その憲法二二条一項適合性を一律に論ずることはできず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。そして、その合憲性の司法審査に当たっては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきであるが、一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲制を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する(最高裁昭和四三年(行ツ)第一二〇号同五〇年四月三〇日大法廷判決・民集二九巻四号五七二頁参照)。

(2) また、憲法は、租税の納税義務者、課税標準、賦課徴収の方法等については、すべて法律又は法律の定める条件によることを必要とすることのみを定め、その具体的内容は、法律の定めるところにゆだねている(三〇条、八四条)。租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない(最高裁昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁参照。)

(3) 以上のことからすると、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法二二条一項の規定に違反するものということはできない。

(4) 他方、酒税法は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保する必要から、酒税免許制度を採用したものと解されるが、酒税が沿革的にみて、国税全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であるとともに、種類の販売代金に占める割合も高率であったことにかんがみると、酒税法が昭和一三年法律第四八号による改正により、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、このような制度を採用したことは、当初は、その必要性と合理性があったというべきであり、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた合理的な措置であったということができる。その後の社会状況の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下するに至った別件処分当時の時点においてもなお、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性については、議論の余地があることは否定できないとしても、前記のような酒税の賦課徴収に関する仕組みがいまだ合理性を失うに至っているとはいえないと考えられることに加え、酒税は、本来、消費者にその負担が転嫁されるべき性質の税目であること、酒類の販売業免許制度によって規制されるのが、そもそも、致酔性を有する嗜好品である性質上、販売秩序維持等の観点からもその販売について何らかの規制が行われてもやむを得ないと考えられる商品である酒類の販売の自由にとどまることをも考慮すると、当時においてなお酒類販売業免許制度を存置すべきものとした立法府の判断が、前記のような政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとまでは判定し難い。

(三) 別件最高裁判決の内容は、おおむね右のとおりであるが、ところで、酒類の販売業等をしようとする者は、政令で定める手続により、販売場ごとにその販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならないとされ(酒税法九条)、その免許の申請があった場合における免許を与えないことができる要件が列挙されている(同法一〇条一号ないし一二号)。右免許を受けないで酒類の販売業をした者に対しては、一年以下の懲役又は二十万円の罰金を科せられることになっており(同法五六条一項一号)、右要件のいくつかに該当するに至ったときは、酒類の販売業免許を取り消されることとされている(同法一四条二号)。右のように、酒類の販売業免許は、罰則によってその履行が担保されるものであって、右内容の酒販免許制度は、酒類の販売業を営もうとする者にとっては、職業選択の自由に対する重大な制約であるということができる。そして、別件最高裁判決は、酒販免許制度のうち、酒類の販売業免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合を免許を与えないことができる要件とする酒税法一〇条一〇号の規定が憲法二二条一項に違反しないとしたものであるが、本件における争点は、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合を免許を与えないことができる要件とする同条一一号の規定が憲法二二条一項に違反するかどうかであり、問題が異なるのみならず、別件最高裁判決が指摘するように、酒販免許制度については、現行の制度が設けられた昭和一三年以降、わが国における社会状況の変化と、酒税の国税全体に占める割合が相対的に低下するに至ったこと等の租税法体系の変遷に伴い、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性については、議論の余地があるわけであるから、別件最高裁判決の対象になった別件処分当時である昭和五一年以降の酒税をめぐる社会状況の変化、租税法体系の変遷等事情を考慮し、なお酒類の販売業免許に関する酒税法の関連規定の必要性、合理性が存在するかどうかについて検討しなければならない。

2  そこで、以上の観点から、酒税法一〇条一一号の規定を含む現行の酒販免許制度が憲法二二条一項に違反するものであるかどうかを検討するに、右認定の事実、原判決中「理由」第一の一ないし五認定の事実、甲第一五号証、第二一号証、第三七号証、第五六号証、第五九号証、第七六号証、第八三号証、第一一三、第一一四号証、乙第一号証、第二号証の一、二、第五号証の一、二、第六ないし第一五号証、第二〇号証、弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、的確な反証はない。

(一) 酒税の需要性についてみると、昭和一三年、酒類販売業者の乱立、消費の不振によって乱売競争等といった事態が生じ、醸造業者が売掛代金の回収に困難を来たし、そのため醸造業者の廃業の発生等によって醸造業者の納税義務の不履行を生じた事例が増加したことを背景にして、現行の酒販免許制度が設けられたものであるが、当時の酒税収入の国税収入全体に占める割合は、一三・四パーセントであり、国税中所得税に次いで第二位であったものの、その後、その割合の増減を経て、昭和四四年以降は、一〇パーセントを下回るに至り、別件処分が行われた昭和五一年当時は、六・五パーセントを占めていた(酒税の収入は、決算額を基準として、約一兆〇一八四億円)。酒税は、その後も、右割合が減少傾向にあり、本件処分が行われた平成四年当時は、三・六パーセントを占めるにすきず、国税の中で、所得税、法人税、消費税等に次いで第五位を占めている。もっとも、酒税の収入は、原判決添付別表四記載のとおり、昭和五一年度の前記税額から漸増を続け、昭和六〇年度以降は、一兆九〇〇〇億円を上下しており、平成四年度には、約一兆九六〇九億円になっている。

酒税の重要性については、歴史的にみれば、国税の中ではその重要性が相対的に低下しており、昭和一三年当時と比較しても、それが低下していることは否定できないものの、なお、その収入の額をみると、平成四年当時においても国税の主要な税目であって、依然としてその重要性を失っていないといわざるを得ない。

(二) 酒類の消費量は、その詳細が必ずしも明らかではないが、昭和五三年以降昭和六二年までの消費量、人口一人当たりの消費量、酒類消費金額、人口一人当たりの酒類消費金額の推移は、原判決添付別表一記載のとおりであり、いずれも漸増している。

他方、酒類販売業免許場数の推移をみると、本件で問題になっている酒類の小売業については、昭和一三年当時、三三万七一〇九場であったのが、その直後に激減し、昭和三六年に一二万三三三〇場(うち、一般酒類小売業の免許場数は、一〇万一九四七場)になり、その後、別件処分が行われた昭和五一年に一五万〇八三二場(うち、一般酒類小売業の免許場数は、一二万九九七六場)になり、昭和五八年に一五万八三一五場(うち、一般酒類小売業の免許場数は、一三万六六八三場)になった以後、一五万八〇〇〇場を上回っているが(一般酒類小売業の免許場数については、一三万場を上回っている)、若干の増減がある。本件処分が行われた平成四年当時においては、小売業全体の免許場数は、一五万八六三六場であり、うち、一般酒類小売業の免許場数は、一三万六五四五場になっている。右の酒類販売業免許場数の変化を、前記の酒類の消費量、酒類消費金額の推移と対比してみると、酒類の消費量、消費金額の増加の推移に照らすと、小売業の免許場数の推移が対応しているとは必ずしもいい難い。

もっとも、酒類の販売の増加に対しては、酒類が、古今東西、致酔性の嗜好品であると一般的に認識されており、粗悪品の流通の防止といった要請のみならず、近年は、飲酒による事故、アルコール依存症、未成年者の飲酒等の酒類をめぐる問題が社会的に問題にされているところであり、酒類の販売に対しては法律による規制を設けるべき社会的な要請が強いということができる。また、その詳細は必ずしも明らかではないが、米国、カナダ等の諸国のように、酒類の販売を自由に行うことができるものではなく、免許制等の規制が行われている国もあるし、宗教的な理由によって酒類の販売が禁止されている国も存在する。

(三) 酒販免許制度の見直し、免許要件の緩和の動きについてみると、昭和三九年九月に公表された臨時行政調査会の許認可等の改革に関する意見においては、当時の酒類消費量の増加、販売区域の市街地化等の現象によって、免許の実質的要件が緩和され、免許件数も増えているものの、依然として、現行の免許制度はややもすれば既存業者の保護に傾き、企業努力を怠らしめる傾向がみられるとの事情の下において、酒税の確保に最小限必要な規制のほかはなるべくこれを自由化する方向で、免許制度を根本的に再検討すべきであるとの意見が公表された。

また、昭和六一年三月二八日に公表された物価安定政策会議政策部会の報告書においては、当時、わが国の流通政策に対して諸外国から批判があったが、その中で、酒類等の商品の販売について、酒税法等により許認可制等が採られており、免許等の交付が相対的に大規模小売店に少なくなっていると指摘されている旨が明らかされ、昭和六二年二月に公表された経済団体連合会の意見書においては、洋酒の輸入の円滑化を図る観点から酒販免許制度について、一次、二次の臨時行政調査会や物価安定政策会議、公正取引委員会等でしばしば指摘されてきたように、規制緩和の大きな流れの中で酒販免許制度の簡素化及び運用の弾力化の実現を図るべきであるとの意見が公表されている。

平成元年一〇月に公表された政府規制等と競争政策に関する研究会の「競争政策の観点からの政府規制の見直し」と題する報告書においては、公表当時では、酒販免許制度による規制導入当時と比べ、酒税の国税全体に占めるウェイトが低下しており、税制改革により間接税の税体系が大きく変化したから、そのような状況の下おいては、酒販免許制度の目的である酒税の保全が需給調整につながるような参入規制を行うことの十分な正当化事由とはならないし、致酔性飲料であるという点に関しては、海外においてはアルコール飲料のマスコミによる広告、自動販売機の設置等が厳しく規制されており、国民の保健衛生、青少年問題、交通安全問題等から一定の規制を行う必要があると考えられるものの、需給調整につながるような参入規制を行うことは、致酔性飲料である酒類の無秩序な販売を防止し、社会的秩序維持を図るとの理由によって十分正当化されるものではないと考えられるとの認識の下において、これらの点、最近における消費者の酒類消費行動の多様化等の環境変化等も考慮すれば、将来的には酒販免許制における需給調整上の要件は自由化する方向で見直すべきであると考えられるとした上、当面の運用改善については、新行革審答申を踏まえて、平成元年六月一〇日付け国税庁長官通達により規制の緩和に向けての見直しが行われたところであるが、さら参入規制の緩和に向けて運用改善を進め、流通業態の多様化及び消費者ニーズの多様化に対応できるよう運用改善を図ることが望まれるとの意見が公表されている。

右報告書にも指摘されているが、酒販免許制度との運用については、昭和六三年一二月一日に行われた臨時行政改革推進審議会の「公的規制の緩和等に関する答申」における酒類小売販売業に関する提言及び同年一二月一三日に閣議決定された「規制緩和推進要綱」を踏まえ、その具体化措置を講ずる等のために、酒類販売業免許等取扱要領について、平成元年六月一〇日に改正が行われたが、右改正は、酒販免許制度が酒税の保全及びアルコール飲料としての商品特性をもつ酒類の社会的管理上重要な役割を担い、主要諸外国においても例外なく採用されている制度であることを踏まえ、経済制度の国際的調和に留意しつつ、旧取扱要領制定以降の社会経済の変化に即応し、酒類の販売業免許が必要な場合には免許を付与することができるよう措置するとともに、制度運営の透明性及び公平性を一層確保できるよう諸規定を改めるために行われたものである。具体的には、右改正によって、免許付与の前提となる小売販売地域を、旧取扱要領において小学校区等であったものを拡大し、原則として税務署所轄区域内の各市町村に変更し、消費者の生活圏、酒類販売店の商圏の拡大等の実態に合わせるとともに、酒類の需給調整上の要件について、旧取扱要領において酒類の総販売数量、消費量、世帯数等が考慮されていたのを、人口を基準とすることに変更し、消費者の酒類の嗜好の変化、核家族化の進行等の実態に合わせ、免許付与に関する透明性及び公平性を一層確保することにしたものである。

(四) 本件処分が行われた後においては、平成五年九月、経済対策閣僚会議において、緊急経済対策が決定され、公表されたが、酒類販売業(小売)の免許に関しすべての大型小売店舗に対する開店時免許付与等の緩和について、店舗面積一万平方メートル以上の大型小売店舗の酒類販売業免許につき、平成五年秋までに全店舗に免許付与、同年秋以降開店する大型小売店舗についても開店日に合わせてすべて免許付与、団地、高層建築物集積地区、事務所集中地区及び商業集積地区につき弾力的な免許付与等を実施することが決定され、大蔵省において速やかに実施すべきこととされた。

また、平成五年一二月に公表された政府規制等と競争政策に関する研究会の「競争政策の観点からの政府規制の問題点と見直しの方向」と題する報告書においては、酒類販売業について、種類の商品特性も考慮しつつ、法の運用の範囲内において、特に小売段階における参入規制手段の透明性の確保、大規模小売店を対象とした酒販免許基準の緩和等が図られてきているが、流通実態の多様化や消費者ニーズの多様化等の経済的状況の変化等をも踏まえつつ、規制の弾力化についても検討する必要があるとの意見が公表されている。

さらに、平成七年一二月に公表された行政改革委員会の「規制緩和の推進に関する意見(第一次)」と題する報告書においては、酒販免許制度は、近年の規制緩和策により改善されつつあるものの、その需給調整要件(距離基準、人口基準)については、消費者利便の阻害、酒類流通業界自体の近代化、構造改善の遅れ等の弊害を、依然として生み出しているとの認識の下に、高率な酒税の安定的な確保のために、製造・流通にわたる一連の現行免許制度が不可欠との論点については、蔵出し税として製造者が一括して税金を納める以上、流通の小売段階まで需給調整要件を置く必要性はないとし、現行制度には、アルコール飲料としての青少年の飲酒防止等のための社会的規制という側面があるとしても、その目的実現のために、酒販免許制度につき需給調整要件を維持すべきかは疑わしいとした上、右の需給調整要件については、廃止を含めた検討を平成八年度中に開始すべきであるとし、また、免許制自体についても見直す必要があるとしたほか、当面は、現行の需給調整要件について、順次一層緩和策を講ずるとともに、申請手続の簡素化等について早急に必要な措置を講ずるべきであるとの意見が公表されている。右の意見は、規制緩和が政治的、経済的に重要な課題になっている現在、一般的にみて、無視できない重要性をもつものと考えられている。

その後、平成八年度から中央酒類審議会において、幅広い視点から酒販免許制度につき検討が行われているところである。

(五) 現行の酒販免許制度は、嗜好品である酒類の消費が担税力の表れであると認めて、酒税を課すものとし、酒類の製造者を納税義務者とし(酒税法六条一項)、酒類の製造のみならず、販売業につき免許が必要であるとし(同法七条ないし一〇条)、右の免許を受けないで酒類等を製造した者に対して刑罰を科すこととしているほか(同法五四条一項等)、右の免許を受けないで酒類の販売業をした者に対しても刑罰を科すこととしている(同法五六条一項一号)。酒販免許制度は、酒税の賦課徴収に関し、庫出課税方式を採用し、酒類の製造者に納税義務を課し、酒類の販売業者を介し、販売代金の回収を通じて、酒税の負担を最終的な担税者である消費者に転嫁するという仕組みであり、酒税法は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保するために、酒類の販売業者につき免許が必要であるとする酒販免許制度を採用しているものである。

酒類の販売業免許を拒否できる要件については、酒税法一〇条一号ないし一二号が規定するところであるが、特に酒類の製造者が販売業者から販売代金を回収することを確保するために重要であると考えられる要件は、同条一〇号及び一一号の規定である。このうち、同条一〇号の規定は、酒類の販売業免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合を免許を与えない要件としているが、同条一一号の規定は、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の販売業の免許を与えることが適当でないと認められる場合を免許を与えない要件としている。右の各要件を比較すると、一〇号所定の要件は、破産者、経営の基礎が薄弱な者という取引社会の中においても信用を失っているか、あるいは乏しい者であって、酒類の製造者が販売代金を回収することが一般的、類型的に明らかである者であるから、間接的ではあるにせよ、酒税の消費者への転嫁による酒税の確実な徴収という酒販免許制度の目的に資することは否定することができないということができる。これに対し、一一号所定の要件は、酒類の需給の均衡を維持するという事情を酒類の販売業免許を拒否することができる要件とするものであり、一般的には、酒類の需給関係が酒税の増減に大きく影響する要因であるということができるとしても、酒類の需給関係が酒類の製造者において販売業者から販売代金の回収を困難にするという事態を招来するとは直ちにいい難いものである。例えば、酒類の製造者としては、酒類の需給を予測して酒類を製造し、販売代金の回収が困難になる販売業者を避けて酒類の取引を行えば、販売代金の回収が困難になる事態を比較的容易に避けることができるものであるし、酒類の販売業者においても、酒類の販売のほか、他の事業を併せて行っていることが少なくないのであるから、酒類の販売代金の支払いは、酒類の需給状況のみならず、他の事業の状況によっても容易に影響を受けるものであるが、これらの事情等を考慮すると、一一号所定の要件が、酒税の確実な徴収に資するものであることを否定することができないとしても、消費者の酒類の購入、消費等の活動範囲が拡大し、酒類の販売業者の商圏も拡大している現在のわが国の社会においては、前記趣旨の酒税の確実な徴収という立法目的と、その立法目的を達成するための手段である酒類の需給関係を考慮した酒類の販売業免許との関係、程度は、一〇号所定の要件と比較すると、薄くなっているということができる。

3  ところで、憲法二二条一項によって保護される職業選択の自由、職業活動の自由、営業の自由は、経済活動が著しく発達し、しかも国際化した現代社会においては、わが国社会の発展と繁栄のために極めて重要であり、今後、一層尊重されるべきことは当然の要請であるというべきである。しかし、職業・営業の内容、態様、目的等によっては、様々な弊害があることは一般的に認められるところであるため、公共の福祉の要請によって様々な制限を受けるものであるが、その制限は、具体的な規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業・営業の性質、内容、規制の程度、制限される自由の性質、侵害の程度を検討し、これらを比較考量して慎重に決定すべきである。そして、当裁判所も、その合憲性の司法審査に当たっては、別件最高裁判決と同様に、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきであり、一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきであるが、租税の諸機能を考慮すると、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきであって、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法二二条一項の規定に違反するものということはできないと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前記認定の事実、原判決中「理由」第一の一ないし五認定の事実によれば、酒販免許制度自体については、酒税の特性及び重要性を考慮すると、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、このような制度を採用したことにつき、必要性と合理性があり、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類の販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、重要な公共の利益のために採られた合理的な措置であったということができるが、その後の社会状況の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下するに至った別件処分当時の時点においてもなお、酒類の販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理制については、議論の余地があることは否定できないとしても、前記のような酒税の賦課徴収に関する仕組みがいまだ合理性を失うに至っているとはいい難い。もっとも、本件処分において問題になっているのは、酒税法一〇条一一号の規定であり、別件最高裁判決の場合と異なり、前記のように、その要件の内容に照らすと、酒販免許制度を採用した酒税法の立法目的との関連性、合理性が薄く、前記の研究会の報告等においても規制緩和等の観点からその存置につき議論が行われてきたところであり、また、別件処分が行われた昭和五一年から本件処分が行われた平成四年までに一七年の期間が経過しており、その間にも、社会状況の変化と租税体系の変遷が認められるところであるため、酒販免許制度自体のみならず、酒税法一〇条一一号の規定の必要性、合理性につき疑問が生じることを否定することはできない。しかし、他方、前記認定のとおり、酒税法一〇条一一項の規定については、平成七年一二月に公表された行政改革委員会による、その廃止を含めた検討を平成八年度中に開始すべきであるとし、また、免許制度自体についても見直す必要があるとする報告等を受けて、中央酒類審議会において、平成八年度から幅広い視点から酒販免許制度につき検討が行われているところであり、このような事情のほか、酒類の販売の自由の性質、酒税の特性、重要性等の前記認定の事情を考慮すると、本件処分の当時においてもなお、酒販免許制度及び酒税法一〇条一一号の規定を存置した立法府の判断が、前記のような政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であると直ちには断定し難いところである。

そうすると、酒販免許制度につき、その制度が設置された昭和一三年当時と酒税の重要性、酒類の販売量、飲酒量等の事情が変化した現在においては、職業選択の自由をその制度目的を超えて不必要、不合理に侵害するものであり、憲法二二条一項に違反するに至っている旨の控訴人の主張(控訴人の当審における主張1)は、採用し難いというべきである。

次に、控訴人は、酒税法一〇条一一号の規定は、酒税の保全という立法目的を超える不必要、不合理な制限であり、また、酒販免許制度の合憲性を判断するに当たって、酒税のほ脱の防止、致酔性の飲料である酒類の販売秩序の維持、飲酒による事故、アルコール依存症、未成年者の飲酒等の社会問題の防止等を考慮することは、酒税法の目的からみて妥当ではない旨を主張するが(控訴人の当審における主張2)、酒税法一〇条一一号の規定が酒税の保全という立法目的からみてその必要性、合理性につき疑問がないではないとしても、前示のとおり、右の点を考慮しても、本件処分が行われた当時においては、なお同号の規定が憲法二二条一項に違反しているとはいい難いから、この点に関する控訴人の主張は、採用し難いところである。また、酒税法一〇条一一号の規定の合憲性を判断するに当たっては、前記のとおり、具体的な規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業・営業の性質、内容、規制の程度、制限される自由の性質、侵害の程度を検討し、これらを比較考量して慎重に決定すべきであると解されるところ、酒類の販売業の性質、酒類の販売に対する規制の歴史、規制に関する諸外国の実情等を考慮すると、酒類の販売に伴う様々な弊害があり、その弊害を防止するため、酒類の販売について法律上の規制を加えるべき社会的な必要性は高いということができ、その反面、酒類の販売の自由は自ずと制限されたものであるということができるから、制限される自由の性質、侵害の程度等を考慮するに当たって、これをどの程度考慮するか、その考慮の程度を慎重に判断すれば、酒類の販売の自由の右の性質、内容を考慮することは不合理であるとはいい難い。右の点に関する控訴人の主張も採用し難いものである。

さらに、控訴人は、規制緩和が重要な課題になっている現在、酒類の販売業免許の廃止が審議会等において公的に審議の対象となっており、早晩、酒類の販売業免許が廃止されることになっている旨を主張し(控訴人の当審における主張3)、規制緩和等の観点から酒販免許制度、酒税法一〇条一一号の規定が審議会等において見直しの対象になっていることは控訴人指摘のとおりであるが、右の事実から直ちに同号の規定が憲法二二条一項に違反するとはいい難いものであるから、控訴人の右主張も採用することができない。

二  本件処分の適法性について

当裁判所も、本件処分は、本件処分の時点においては適法であったと判断するものであり、その理由は、原判決中「理由」第二の一及び二記載のとおりである。

控訴人は、現行取扱要領に規定する人口基準が、その基準自体不当であるが、夜間人口のみを考慮し、昼間人口、人口一人当たりの飲酒量を考慮していないことも不当である旨を主張するが(控訴人の当審における主張3)、現行取扱要領が人口を酒類の販売業免許付与の基準の一つとしていることが合理的であることは原判決の判示するとおりであるから、右の点に関する控訴人の主張は採用することができない。また、酒税法一〇条一一号の規定の趣旨を考慮すると、酒類の需給関係が昼間人口、人口一人当たりの飲酒量にも関連していることは、控訴人指摘のとおりであり、そのような事情を考慮して酒類の販売業免許を付与できるような制度を一般的に設けることも合理的であり、一つの選択肢であるということができるが、本件処分が行われた当時において、現行取扱要領が規定する基準と、控訴人指摘の事情を対比しても、現行取扱要領に基づき行われた本件処分が違法であるとまではいい難いところであるから、右の点に関する控訴人の主張も採用することができない。

第五結論

よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 佃浩一 裁判官 升田純)

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